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第6話 記憶のある男 Side:一条陽太

last update Date de publication: 2026-06-17 06:00:47

「な、んでだよ……っ!!」

 俺は、武藤会長を連れて女王様みたいに華やかに去っていく白峰結月の後ろ姿を、ただ口を開けて見つめることしかできなかった。 驚きとパニックに、名刺入れを握る指先がみっともなくガタガタと震える。 周囲の連中が「何だあいつ?」と俺をクスクス笑っている気配がして、顔がカッと熱くなった。

 おかしい。こんなの絶対におかしい!

 だって俺の頭には、はっきりと『前世の記憶』があるんだ――

 確か結月の財産を根こそぎ奪うことに成功し、成美といよいよ一緒になれると思い、激しい夜を過ごして目覚めたら――なんと、大学時代に戻っていた!

 心の中でガッツポーズをキメた。

(よっしゃあ! 俺には、あの輝かしい10年間の記憶がある!)

(一条グループを業界3位まで押し上げた、俺の天才的な経営手腕をもう一度再現できる!)

 だからこそ、さっきこの会場で武藤会長に冷たくあしらわれた時も、「フン、今に見てろよ」と余裕をぶっこいていた。 前世と同じだ。ここで俺がちょっと困った顔をして見せれば、結月という都合のいい金持ちの令嬢が「放っておけない」とすり寄ってきて、アドバイスをくれる。

 どんなアドバイスだったかは覚えていない。なんだったかな?

 まあいいや。すぐにでもやって来るさ。なにせ、前世の記憶があるとか、勝ち組すぎん?

 俺、最強。わっはっは。この世のすべてを牛耳ってやるぜ~。

 そうそう。確かこの後、結月に助けられてから、あいつは俺の代わりに銀行を回って、ずさんな事業計画書を徹夜で完璧に書き直してくれるんだ♪

 便利な女と知り合えたんだ。

 この知識があれば、もっと金持ちになれる!

 業界3位といわず、1位だって夢じゃないんだ!!

 これは神様が俺にもっと金持ちになれというお達しだな。感謝だぜ~。

 それなのに。

「ごめんなさい。人違いだと思いますわ」

 は? 人違いぃぃ!?

 あいつ、どの口でそんなこと言ってんだ!?

 前世じゃ「陽太、あなたならできるわ」なんて健気に俺を支えて、安物の指輪一つで「世界中のどんな宝石よりも尊い」なんて涙ぐんでた癖に!

「……失礼しました。白峰ホールディングスのお嬢様ともなれば、僕のような人間の挨拶など、耳に入れる価値もないということですか。噂通りの、お高くとまったお方だ」

 精一杯のプライドを振り絞って、嫌みのひとつを言ってやった。 どうせ結月のことだ。「強い女」を気取って背伸びしているだけで、俺が冷たくすれば、後から「陽太、さっきはごめんなさい」って泣きついてくるに決まってる。

 女のくせに可愛げのないあいつは、俺が「君がいなきゃダメだ」って言ってやらないと生きていけないんだからな。厳しくしつけてやろう。

 ほら、すぐ戻って来るんだろ――そう思っていたのに、あいつは俺に背を向けたまま、一度も戻ってこなかった。

 なんでだよ!!

 ふざけんなよ結月のくせに!!!!

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  • 死に戻り令嬢は、初恋を選んだ元婚約者が土下座しても絶対に許さない   第1話 奪われた女 Side:白峰結月

    「はぁ……」 私はため息をついた。 天井のしみを、もう何百回数えただろう。 白い天井に走る、雨漏りのあとのような薄茶色のしみ。三つ、いや四つ。数えるたびに増えていくような気さえする。かつての私なら、こんな安アパートの天井を見上げて死ぬ日が来るなんて、想像すらしなかった。 白峰結月(しらみねゆずき)。白峰ホールディングスの一人娘として生まれ、何不自由なく育った。海外の大学で経営学を修め、二十代の半ばで財閥の中核事業を任され——そして三十を過ぎた今、私は、すべてを失った。 医者は、過労と慢性的な栄養失調が重なったのだと、淡々と告げた。笑ってしまう。財閥令嬢として生まれた女が、その日の食事にも事欠くようになるなんて、いったい誰が想像しただろう。一条を——いや、一条という名の、私自身が作り上げた作品を守るために、私は自分の体のことなど、いつも後回しにし続けた。気づけば貯えは底をつき、頼れるはずの人脈もすべて、奪われてしまった。 私はこの六畳一間で、誰に知られることもなく、ただ静かに朽ちようとしている。 体が、動かない。指の一本さえ、もう自分の意思では持ち上がらない。少し前まで腕に刺さっていた点滴の管も、その冷たささえ感じなくなって久しい。感覚があるのは、ただ一点、胸の奥だけだ。燃える炭を押し当てられているように、そこだけが、ずっと熱い。——陽太(ようた)。 その名前を思い浮かべるだけで、もう涸れたはずの目の縁が、じわりと滲んだ。 一条陽太(いちじょうようた)。私の、婚約者だった男。 大学のレセプションで出会ったときの彼は、地方の中堅企業の御曹司で、野心だけは一人前の、けれどどこか危なっかしい青年だった。スーツの着こなしも、名刺の渡し方も、財界の作法も何も知らない。背伸びした言葉ばかりが先走って、足元はいつもぐらついている。私はその危うさを、どうしても放っておけなかった。 だから、私はすべてを注いだ。 父から譲り受けた、私名義の株式。母方の祖父の代から財界に張り巡らせてきた人脈。十年かけて磨いた経営の勘と、誰にも真似のできない買収のノウハウ。一条グループが業界三位まで一気に駆け上がったのは、世間では陽太の若き手腕として語られているけれど、いつもそばでアドバイスを繰り返し、彼を支えたのは私だった。 忘れもしない。一条が初めて大型の資金調達に挑んだと

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